バージニア工科大学のJinhee Kim (2000) の研究は、職場での金融教育が従業員の家計改善と労働成果向上の双方に寄与することを実証的に示した先駆的研究です。
1990年代以降、アメリカでは確定拠出年金(401k)や自助型の退職資金形成が広がり、従業員が自ら資産運用を決定する必要性が高まりました。
その一方で、金融リテラシー不足により非効率な家計管理や退職準備不足が問題化していました。
こうした状況で職場における金融教育(workplace financial education)の有効性を実証的に検証したのがJinhee Kim (2000) の研究です。
この調査は保険会社の全476名の従業員を対象に行われました。
この研究により「金融教育は単なる福利厚生ではなく、企業経営にとっても投資である」という視点が強まりました。
その後の研究や政策(例:米国のFinancial Literacy and Education Commission設立)に影響を与えた初期の実証研究の一つです。
研究の数値的な結果は以下のとおりです。
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職場金融教育を受けた群は、受けていない群に比べて 毎月の貯蓄を行う割合が有意に高かった(教育群の定期貯蓄実施率が20〜25%程度高い結果に)
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教育群は非教育群に比べて 退職金積立を開始する確率が有意に高い。退職積立口座を保有する割合が約15%ポイント多いという結果
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教育群では、クレジットカードの残高やローン支払いに関する延滞の自己申告が減少。特に「支払いに遅れることがある」と答えた割合が非教育群より約10%低い。
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「勤務中に金銭問題で気を取られる」と答えた頻度が、教育群では約20%減少。教育群の従業員は「集中できる」と回答する割合が非教育群より15〜18%高い結果に。
- 金融教育を受けた従業員の方が「仕事に満足している」と答える割合が約12%ポイント高い。
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教育群は「現在の職場を辞めたい」と答える割合が10%以上低い。これは企業の従業員定着率にプラスに働くことを示唆する。
論文の結果と強調点
職場金融教育は単なる知識向上に留まらず、貯蓄行動・退職準備・借入管理といった具体的行動に数値的改善をもたらすことが明らかになりました。
その結果、金銭ストレス低下 → 職務集中度向上 → 生産性・満足度上昇 → 離職意向の低下 という一連のポジティブな連鎖が確認されています。
Jinhee Kimの研究は、今から25年前のものですが、今の日本もまさに当時のアメリカと似たような状況です。
401kなど自助努力による資産形成が広がる一方、それに対する教育が不足し、金融リテラシーが高くない状況は似ています。
金融教育格差をなくすために、職場における金融教育の大切さを啓蒙し、働く世代のお金の悩みを解消していきましょう!